中国武術家・血闘記録 ~ 華拳 蔡龍雲 ~ ③

マスロフとの試合の三年後。

上海の路上でマスロフと蔡龍雲がばったり顔を合わせました。 たちまち殴り合い、ってのはなくてマスロフは蔡龍雲に対してこう言いました。

「あのとき負けたのは、蹴りを認めたからだ。手だけで打ち合えば、拳法などボクシングの敵ではない。もう一度、勝負しようじゃないか」

すると蔡龍雲、あれから三年経って17歳。からだも力もついてきて生意気盛りです。人差し指を相手の顔に突き付け

「いいだろう。しかし、そちらが条件をつけるなら、こちらにも一つ条件がある。どうせやるならあんたでは不足だ。一番強いヤツを出せ」

と言い放ちました。

 

この一件は蔡龍雲の父・蔡桂勤には内緒にするつもりでした。というのも実は、蔡龍雲はマスロフとの試合後、ふとしたストリートファイトが原因で両親の財産を失わせるほどの迷惑をかけたようです。

そのストリートファイトとは、マスロフとの試合から半年後のことです。

あるとき京劇を観ての帰り、蔡龍雲は立ち回り場面などを回想しながら、楽しく家路についていた。そこへ突如、ヌッと行く手を遮った者がいた。

上海黒社会に張という大親分がいたのですが、その大親分のボディガードの一人だった。

男:「貴様が神拳大龍という小僧か」

蔡: 「はぁ」

男: 「誰にことわって神拳などという看板を掲げているのだ」

蔡: 「人がそう呼んでいるだけです」

男: 「では俺がその看板を降ろしてやろうじゃないか」

蔡: 「そういうあなたはいったい?」

男: 「泣く子も黙る張一家の四大金剛よ」

話しているうちに蔡龍雲の胸にはメラメラと抑えきれぬ怒りが込み上げてきた。

蔡: 「金剛だか何だか知らないが、神拳の看板、降ろせるものなら降ろしてみろ!」

まず金剛は腰をガッと落として両手の指先を鈎のように曲げて構えた。これは上海南派少林の名門「黒虎拳」。

金剛は虎が爪を立てて襲いかかるように、蔡龍雲の顔面を攻撃してきた。蔡龍雲はパッと身を低くしてその下に入り込むと、体当たりで金剛をはね飛ばした。金剛は道路の中央まで飛ばされ、通り掛かった自転車にぶつかり、いっしょにぶっ倒れてしまった。

蔡龍雲は、これで勝負がついたと判断しその場を立ち去ろうとしていた。金剛はそうはさせじと、蔡龍雲の後ろから両手で抱きついてきた。抱きつかれたら力の有る方が有利です。

そこで蔡龍雲は、骨も折れよとばかりに、思いっきり足を踏みつけた。「震脚」である。

悲鳴を上げて金剛の力が抜けたところを、蔡龍雲は足を引っ掛けて投げ飛ばした。金剛は痛い足を抱えて、もう起き上がってくることができません。その隙に蔡龍雲は無事に逃げました。

ところが3日後、警察隊がきて蔡龍雲を逮捕してしまいます。「治安を乱した」という名目で。

実は、これは張一家の金剛が警察とのコネを使い、蔡龍雲を犯罪者に仕立てて闇に葬ろうとしていることがわかった。

華拳の門人たちは張一家だろうが、警察だろうが一戦交えようじゃないか、と必死の覚悟です。

そして蔡桂勤は、大切に閉まっておいた「七星宝剣」を取り出しました。

父、蔡桂勤もついに殴り込み、っといきたいところですが、そうではなくて、我が子を救い出すために、宝剣も夫人の数少ない貴金属も、とにかく金になるものを全部かき集めて売り払い、これを工作資金として関係方面にわたりをつけました。

蔡龍雲は無事に家に戻りましたが、蔡桂勤はこの一件で一言もいいませんでした。何も言われないことほど堪えるものはありません。さぞかし深く反省したことでしょう。

なのに、またマスロフとの再会で一戦交えようとしています。

次回に続く


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