寸勁の科学的分析と解明③

寸勁の威力についての考察

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一般学生の逆突きを顔面ならともかくボディに受けても、鍛えた人ならほとんど効かない。

中国拳法選手の二つの寸勁の衝撃力は、最大値が一般学生の約1.5倍、普通の大学の空手部や少林寺拳法の黒帯と同程度である。しかも力積は一般学生の2倍近くもある。 これなら、顔面はもちろんボディに対してもある程度のダメージを期待できる。特に相手がこのような近距離からの突きのくるはずがないと油断していれば、肉体的ダメージだけでなく精神的にもショックを受けるだろう。

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中国拳法家の寸勁の衝撃力は力積こそ非常に大きいが、最大値は92Kg重と一般学生の突きの6割しかない。最大値の大きさが物をいう顔面に対してはほとんど効果がない。ボディに対してもこの最大値では相手がよほど腹筋を緩めていない限り効果はない。フルコン系の格闘技の経験者相手の実戦では、この衝撃力自体によるダメージはないとほぼ断定できる。

しかし、この寸勁を拳による体当りと考えれば話は別である。中国拳法では前進の運動量を掌(または拳)、肘、肩を通して相手に伝える。     肩の場合は見るからに体当りだが、掌、肘の場合も相手に触れる部位が異なるだけで、力学的には体当りである。なぜなら、掌や肘が高速で相手にぶつかり、主として腕の運動量だけで最大値の大きな衝撃力が生じるなら掌による打撃や肘打ちと呼べるが、中国拳法のこの種の技では、掌や肘の動きは低迷でしかも胴体の勢いを伝える道具として使われているからである。

表1の中国拳法家の寸勁は、体重60Kgの相手を重心速度秒速1mでよろめかす威力を持つ。これだけなら何でもないが、中国拳法家の体当りは足の甲で相手の足の動きを封じるなど、バランスを崩して吹っ飛ぶよう工夫されている。例えば上段回し蹴りに行った動きに合わせてこの種の体当りを食らうと、勢いよく地面に倒れるか狭い場所なら壁などにぶつかる。

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立ったときの重心の高さを1mとしてまともに倒れると、地面にぶつかる重心速度は時速16キロにもなる。体が後ろへ回転しながら落ちれば、後頭部の速度はさらに大きくなる。地面がコンクリートならランニング中に電柱に激突したのと同程度、打ち所によってはそれ以上のダメージを受ける。寸勁あるいは体当りの効果はその衝撃力によるのではなく、倒れたときのダメージによると解釈した方が適切であろう。

 

最後に寸勁による瓦割りを解説しておこう。積み重ねた瓦は上から順に割れるので、衝撃力の最大値よりも1枚が割れる力をいかに持続するかが問題である。普通の人でも瓦の1枚や2枚なら正拳で割れる。表1の一般学生と同程度の衝撃力が出せれば、後は持続時間すなわち力積の大きさに応じて割れる枚数が決まる。

image体重80キロの人が掌底で瓦に体重をかけるとそれだけで80Kg重の力が作用する。さらに身体の鉛直方向の動きによる衝撃力がそれに加わる。掌底を瓦に当てがい、両足の力を抜いて身を沈める。その間は肩関節や遊びや胴体の捻りを利用して、掌底が動かず瓦に力が加わらないよう、また身体の沈むのを妨げないよう努める。

こうして身体重心が5cm沈んだとしよう。最初体が静止していたとして、重心の降下速度は秒速0.99mになる。身体の下向きの運動量すなわち衝撃力の内積は  80Kg×0.99m/s = 79Kgm/s = 8.1Kgw・s となり、表1の力積の数値と比べてもかなり大きい。この力積を瓦に伝えるのに0.1秒かかったとすると、その間81Kg重の衝撃力が作用する。体重と合わせて計161Kg重の力が0.1秒間持続したわけで、この間瓦は次々に割れていく。

この計算は、瓦1枚がちょうど161Kg重の力で割れるとしないとつじつまが合わないし、瓦が1枚割れて次の瓦に力が加わるまでの過程は考えていない。従って全てが計算通りとはいかないだろうが、基本的には正しい。

実際的な注意点は、体重が瓦に乗りやすい体勢にすること、力を加える瞬間は肘をしっかり伸ばし、肩と胴体を一体化することである。これを怠ると、体重が利用できず、肘と肩がクッションになって衝撃力が小さくなる。

中国拳法は決して神秘的なものではなく、力学的に説明できる技が大部分である。同様の力学的原理はボクシングのショートパンチなど他の格闘技でも応用している。中国拳法から学ぶべきことは多いが、これを崇拝するあまり他の格闘技を見下す愚は避けねばならぬ。


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