寸勁の科学的分析と解明

10数年前に、格闘技雑誌で掲載された『寸勁』に関する記事を紹介したいと思います。

寸勁を始めとする様々な打撃格闘技の打法の衝撃力測定を行った中部大学教授・吉福康郎氏が、寸勁の測定結果から、そのメカニズムを明らかにしています。

 

寸勁とは : 中国武術の攻撃技術の一つで、自分の攻撃部位と相手の距離が非常に短い状態から発勁を行い、強い衝撃を加える技法のこと。

有名なものにブルース・リーが実演した「ワンインチパンチ」がある。

 

吉福康郎(よしふく やすお)
1944年、滋賀県生まれ。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科(理論物理学)修了。理学博士(東京大学)。現在、中部大学工学部教授。専門分野は、スポーツ・バイオメカニクスと生命情報科学で、現在はスポーツ、特に格闘技や伝統武術の技の科学的解明のほかにヨーガと気功の実践も。おもな著書は『武術「奥義」の科学』、『格闘技「奥義」の科学』(講談社)など多数。

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❶寸勁の衝撃力

突きの衝撃力は拳が的に触れたときから始まり、拳を通して上肢や胴体の運動量(的に向かって進む勢い)がすべて的に伝わったときに終わる。 運動量をなくした身体は停止する。衝撃力の時間的変化を表した衝撃力曲線(図1)から次の3つの意味ある数値を読み取ることができる。

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図1のfMは衝撃力の瞬間的な最大値である。最大値の大きい衝撃力は「鋭い」衝撃力と言える。鋭いパンチががんめんに当たると頭部に瞬間的に大きな加速度が生じ、脳がショックを受ける。一般に、拳を含む上肢が高速で的に当たると、衝撃力の最大値が大きくなる。

持続時間Tは衝撃力の発生している時間。すなわち身体の運動量が的に伝わるのに要する時間である。的がボディのように柔らかい、拳の握りや脇の締めが甘い、あるいは拳の速度が遅い場合に持続時間が長くなる。

力積I は衝撃力曲線の下の面積である。力積は衝撃力の力「重さ」を意味する。力積が大きいと、相手を吹っ飛ばしたりボディに拳が食い込む威力が大きい。

力積=的に当たる直前の身体の運動量  の関係がある。同じフォームで突いた場合、身体の運動量が同じなので、的の固さや高速の握りによらず力積は一定となる。

力積が一定の場合、衝撃力の持続時間が短いほど最大値が大きくなる。

以上の基礎知識をもって、寸勁の衝撃力を他の格闘技の逆突きの衝撃力と比べてみよう(表1)。

 

表1の最初の3つは逆突きの衝撃力だが、持続時間に大差はない。格闘技を知らない一般の大学生(男子)の衝撃力の最大値は155Kg重(重さ155Kgの物体を静かに乗せたときの力)で、力積は1.6Kg重秒(以下力積の単位は省略)だった。

これと同じ衝撃力測定器を使った少林寺拳法5段の衝撃力は一般大学生の2.2倍、力積は2.6倍で、最大値にほぼ比例して力積も大きかった。

最大値の大きく出やすい新型測定器を使ったキックボクサーウェルター級チャンピオンの衝撃力は、力積は学生の2.8倍だったが、最大値は4.3倍にもなった。

なお、きっくボクサーと少林寺拳法の衝撃力は、私(吉福氏)がこれまで測定した逆突きの衝撃力の力積の第1位と2位の記録である。

パンチがまともに当たったとき相手のよろめく重心の速度は

速度(m/g)= 力積 ÷ 体重 (Kg) × 9.8

で計算できる。キックボクサーのパンチが体重60Kgの人に当たれば、秒速0.74メートルで後退する計算になる。

表1の下の3例は寸勁あるいはそれに近い技の衝撃力である。程度の差はあれ3例とも最大値の割りに力積の大きいことが特徴だが、実際的な威力については後で考察する。

 

次回に続く

 


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