F1メカニック講座 SOCについて

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まず最初にSOC(ソック)って何やねん!
ソック、いやエスオーシーであるが、SOCはステイト・オブ・チャージ(State Of Charge)の略で、蓄電装置の充電状態を表します。
昨シーズンのバーレーンGPのフリー走行中に、トロ・ロッソのレースエンジニアが無線で「ソックを9にしろ」という指示をドライバーに与えていたのを記憶している。
F1は2013年までKERS、2014年からはERS-Kを搭載し、どちらも減速時の運動エネルギーを回生し、電気エネルギーに変換するシステムだが、1周あたりに放出できるエネルギー量には10倍の開きがある。
KERSは400KJだったのに対して、ERS-Kは4MJまで認められている。
運動エネルギーを電気エネルギーに変換するモーター\ジェネレーターユニット(MGU-K)の出力は2013年から2014年にかけて倍増し、60kwから120kwになりました。
つまり、蓄電装置には短時間に大きなエネルギーを蓄えると同時に、たくさん蓄える能力が必要とされるということになる。

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蓄電装置の性能を示す指標に「パワー密度」と「エネルギー密度」がある。
「パワー密度」は瞬間的に出し入れできる能力を示す尺度
「エネルギー密度」は蓄えられる容量の大小を表す。
エネルギーの流れを水道に例えると、
パワー密度が高い場合は、蛇口をひねると水がドバーッと勢いよく流れる状態。
パワー密度が低い場合は、蛇口をひねっても水がチョロチョロとしか流れない。

エネルギー密度が高い場合、容器の容積は同じでも、たくさん水を蓄えておける状態。
エネルギー密度が低い場合、容器の大きさは同じなのに、すぐ水がいっぱいになってしまう状態である。
上流から大量の水を一気に流そうとしても、蛇口が細くては下流に流せない。短い時間に大量の電気エネルギーが発生するERS-Kでは、高いパワー密度(太い蛇口)が求められる。

コンパクトなパッケージで大量のエネルギーを蓄えられる性能も必要で、それには高いエネルギー密度が必要。パワー密度とエネルギー密度は相反する関係にあり、パワー密度を高めようとすれば、エネルギー密度は下がり、エネルギー密度を重視すればパワー密度は落ちてしまう。
どちらに関しても妥協を最小限に食い止め、双方の性能を最大限に引き出せる蓄電装置は、リチウムイオン電池しかなく、F1で搭載されている蓄電装置はリチウムイオン電池である。

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そのリチウムイオン電池、100%の充電状態から0%の放電状態まで目一杯使うわけではない。
F1では1周あたり4MJしか使えないので、4MJの容量を確保すればいいのではなく、充放電の際の変換ロスを見込んでおく必要がある。ロスが5%だとして、4.2MJの容量は必要。
さらにリチウムイオン電池はその性質上、満充電から完全放電まで使い切るような使い方をすると、繰り返し充電を行う回数(サイクル寿命)が極端に短くなってしまう。それを避けるため、充電残量の上から一定割合と、下から一定割合は使わないのが鉄則である。
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SOCの20%から80%までの範囲を使ったり、30%から70%を使ったりする。
日産スカイラインのリチウムイオン電池は1.4kwh(5MJ)の容量を持つが、実際に使っているのはそのうちの0.5kwhだという。電池を保護するために「使わない」領域がいかに大きいかがわかる。
充放電領域の6割しか使わないで4.2MJを蓄えるには、7MJの容量が必要になる。
大きな無駄を抱えているのが現状で、充放電時の変換ロスにしても充放電領域にしても、効率化を図る開発は続けられている。
リチウムイオン電池は温度によって充放電特性が変化する。できれば30℃を超えない領域で使いたい。温度の安定領域を超えると、充放電の性能が一気に落ちるし、ダメージも大きく、寿命を縮めてしまうからだ。
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パワーユニットはドライバーあたり年間5基(2014年)に使用数が制限されるが、それには当然、リチウムイオン電池も含まれる。所期の性能を長期にわたって維持するには緻密な温度管理が必要。
F1が積む電池は冷却システムを備えているが、充放電の速さや量、回数によって内部の温度が変化。
大切な電池を長持ちさせるよう、SOCのダイヤルを切り替えて管理するわけである。

「SOCを9にしろ!」というように。


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