闘いの氣を具現化した伝説の巨人 澤井健一①

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今回から3回ぐらいに分けて「格闘神秘武術」に掲載されていた記事を載せてみたいと思います。
太氣拳の魅力の一端を理解していただけたらと思います。ではではスタートです。

『現代格闘技界において、太氣至誠拳法と澤井健一の名はひとつの伝説と化している。数多くの格闘人が、壁にぶちあたり、澤井師の教えを請い、太氣拳の門を叩いている。
では、それほどまでに格闘人をひきつけたモノとは何だったのか…。
ここでは、澤井師の愛弟子である佐藤嘉道氏のお話を中心に、関係者の証言なども組み込んで澤井師の実像と実戦の”氣”を主とする太氣拳の真髄を一代記風に迫ってみたい。

【拳聖・澤井健一】
「そんな動きをしていたんじゃ、君は僕の年まで持たないよ」
声のした方を見ると、頭が禿げ上がり、眼光が鋭い人物が佐藤嘉道の動きをギロリと見つめていた。60歳は越しているように見えた。右手には木刀のような、杖のようなものを持った武人然とした人物。それが、澤井健一であった。
『当時、私は21歳で極真会館で空手の稽古をしていました。その稽古を澤井先生が見ておられて、あまりにみっともまかったんでしょうね。声をかけて頂いたわけであす。
その頃の私は、自分なりに空手に必要なものは、”パワー”と”スタミナ”などと考えていたんですが…』
澤井は佐藤に対して、さかんに”氣”とか”気分”という言葉を口にした。
〈一体、この先生の言わんとされていることは何なのだろう〉
佐藤は理解ができないながらも、澤井の風貌や身体に漂っている気迫、身振りや手振りを混じえながらの話に引き込まれていた。不可思議な…ともすれば怪しい印象を持たれかねない”氣”という抽象的な言葉が澤井の口から出ると、そこには具現化され、見えているもののような勘違いさえ起こしかねなかった。
澤井と出会って、このような印象を持った人間は佐藤だけではない。その中のひとりに盧山初男(当時・極真会館最高顧問)がいることは古い空手ファンには広く知られている。特に盧山の場合は、澤井師と向かい合い”氣の力”を体感させられたことで、太氣拳への傾倒ぶりは凄まじいものがあったという。
そして、佐藤と盧山に敗北感を味わせ、空手への疑問を抱かせた”極真の元祖・怪物”ことオランダのヤン・カレンバッハも、また、澤井に教えを請うことになる。

『この頃、私は極真会館を事情があって除名処分になっていて、澤井先生にすがって、太氣拳を学び始めた頃でした。池袋でカレンバッハとばったり会ったんですね。その時に、澤井先生のことを話すと、彼がぜひ会いたいという。それで、先生のお宅に訪問したら、翌日の朝5時半から当時の練習場所だった神宮に通ってくるようになったんです。』
が、日本人より合理的に考える欧米人気質からか、カレンバッハは太氣拳の稽古に対して、まず、驚き戸惑っていた。
〈私は最初に目にしたあの神宮での稽古を、決して忘れることができない。稽古生と見受けられる男たちは誰一人として稽古をしていなかったのであるから、いや、少なくとも、その時は、そうとしか私の目には映らなかった。ただ、じっとして木のように立っているだけだったのだから。〉
加えて、澤井の姿はそこにはなかった。
巨漢のカレンバッハに対して、彼らは”無視”していた。こうなると一体、何をしていいのかわからず、そこに佇んでしまった。期待したほどのももじゃない…カレンバッハに落胆の色がありありと見え始めた頃、あれほど探し歩いた澤井が、当たり前のように姿を現した。

「じゃあ、これをやってみるように」
よく来たなでも、待たせたなでもなく、いきなり、こうカレンバッハに言ってくる。
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示されたのは防御のいくつかの動きだった。柔らかな動きだった。目の前に差し出された澤井の両腕がゆっくりと、しかし、実に軽妙に動いて速い攻撃をかわしていく。カレンバッハも受けてみたが、相手の腕を打ち砕くような力強さはあったが、澤井のそれとは、かなり異質なものに見えた。
「悪くはない。だが、動きがまるでうしのようだ」
澤井の言わんとすることを理解しようとする前に、澤井はカレンバッハの目の前で構えていた。慌ててカレンバッハも構える。澤井が打つ。カレンバッハが受ける。一撃目を受けると、すぐ二撃目が来た。何とか上体を逸らしながら受けたが、三撃目はカレンバッハをまともに捉えた。

「こんなことできるわけがないと思っとるな」
澤井は怒ったような、それでいて何とも楽しそうに呟くと、今度はお前の番だとでもいうように手招きして構えた。カレンバッハが突く。澤井は常に動き、体捌きでかわした。2打、3打も微妙なところでかわされていた。いつの間にやら技に力が入っていた。スルスルとかわす澤井の動きを封じようと腕絡みから攻撃を加えようと試みた。すでに遠慮は無くなっていた。が、これもかわされ、カレンバッハは攻撃の的を失い、バランスを崩してしまった。
何が何だか分からないという困惑した表情を浮かべるカレンバッハは、一体、今の技がどういうものなのかを考え込んでいた。
そんなカレンバッハに澤井は、かつての自分の姿を
重ね合わせて見ていたに違いない。
次回に続く…


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